番外編
「デートしようよ」
日曜の朝、できるだけふざけた口調で悠太を誘ってみる。
悠太はぽかんとして、ああかわいいと思ってしまった。
「――どこに?」
デートという単語そのものは無視されたがどこへは一緒に行ってくれるらしい。
もちろん君の好きなところへ、そう言おうとして悠太の眉間のしわに気づくと同時に彼から言葉が発せられる。
「ちょっと待て。何が、あった」
さすが親友。苦笑が漏れた。悠太はじっと暁を見つめていて、でもそれを交わす言葉は滑らかに出る。
「何もないよ。俺の気分でデートに誘っちゃ悪い?」
「悪いな。何を隠している」
お互い笑顔で見つめ合う。こんな状況じゃなかったら嬉しいのにねと思いつつ心の中で溜め息。
先に折れたのは暁だった。
「怒らないでね。誘ったのは俺の意思だよ」
「いいから。はやく見せろ」
彼にケータイを差しだし、朝届いていたメールを見せる。
「“悠太をデートに誘ってください”か……」
「差出人不明。気持ち悪いでしょう。だからいっそのこと割り切って気分転換にどこか行かない?」
「んー。で、結局どこに行くんだ」
「君の好きなところへ」
「映画か本屋か……でもあまり暗いところだと気持ち悪いしな。暁は?行きたいところ」
「……」
「警察、行くか?」
優しく悠太に訊ねられたが首を横に振る。
自分の身を自分で守れない歳じゃないし、暁も悠太もお互いを頼れる。
ひとりじゃない。
「映画、行こう」
「わかった」
まだ言えずにいる想いをそっと胸の奥に押し込んで、お互いにっこり微笑んだ。
おわり。