本編
頭が冴え冴えとして眠れない。
親友を失っても伝えたかった想いが悲鳴をあげているのを感じて悠太は耳を塞いだ。
高校を卒業してから悠太が愕然としたのは、毎日暁と会わないという当たり前のことだった。
常に自分の横にいた親友。
寂しいという感情を認めたくなくて連絡はしなかった。
暁から会おうと言ってくるのを待つだけ。
何人かの女性と付き合ったけれど、誰も恋人にはなりえなかった。
久しぶりに会った日の別れ際、暁は悠太にスリッパをくれた。
たったそれだけのことなのに、離れていても自分の心に近しい者がいるとわかったらたまらなく彼がほしくなった。
目を背けていた『好き』が暴れ出してどうしようもない。
たまたま本屋で会った日、同じ本に手を伸ばしたときからタイミングばかり伺って。
ときどき泊まりにいって、一緒の時間を過ごして、もうこのままでいいかと思ったけれど耐えられなくなって近づくのをやめて、先日、ふられた。
最悪、だ。
気持ち悪いって言われた。
もう二度と会えない。
そして悠太は夢を見た。
暁の結婚式で、友人代表でスピーチをしている自分。
笑って「おめでとう」と言う自分。
――いつか来る未来だ。
*******
暁は暗い部屋で、悠太の残した痕跡をかき集めて腕に抱いた。
ちっとも満たされない気持ちを埋めようと悠太の香りが残るクッションに鼻先をくっつけて。
彼はもう来ない。
自分があんな言葉を言ったとかどうとかじゃなくて、気持ちがばれてしまったなら、彼は――来ない。
もしあのとき、「俺も」と答えていたら今ここにある未来はどう変わったのだろう。
蔑んだ目で見られることだけは、耐えられない。
じゃあ何なら耐えられるかと考えて軽く首を振る。
ありえない。
でも、そうあってほしかった。
おわり。