図書室の主 | ナノ

本編

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 本が読みたくなったから古本屋へ行った。

 以前から話題作や映画化などで気になってはいたものの買いそびれてしまったものを端から手に取ると籠が一杯になってしまった。

 まあいい、お金が足りなければ店員さんに取ってもらっておいてすぐそこのATMで下ろそうと思いながらまた一冊籠に放り込もうとして手が止まった。

 なんのことはない。

 おそらく最後の一冊になるだろうそれに、悠太とは違う手が同時に伸びただけのこと。


「あ、どうぞ」


 どうせ自分は籠いっぱいに買うのだから今日一日で読み終わるわけでもない。また来ればいいからと相手の顔を見ずにそれに手を差し伸べれば、その手にぽんと本が載せられた。


「これは、君に」


 苦笑交じりの声に聞きおぼえがあると思いつつ顔を上げれば暁がいて、しかも彼の腕にかかる籠には悠太と同じくらいの本が詰め込まれていた。


「奇遇だね。このあとお茶でもどう」
「そうだな」


 そのまま買い物を続ける気になれなくて会計をしたらぎりぎり1万円以内に収まった。


「35冊も一気に買ったなんて初めてだ」
「俺も。それよりは同じ発想をする人がいたことに驚きだよ」
「暁と俺の行動がかぶるのは珍しくないだろう」
「まあね」


 現に今、スタバで頼んだものも中身のみならずサイズまで同じだった。


「文房具類はほぼ一緒だったよね。あと、レポートの視点とか」
「お前と一緒だとわかるたびにげんなりしてたな」
「ひどいなあ」


 ぼやきつつ暁が笑っているのに妙に腹が立って、悠太は一気に飲み干した。


おわり。



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