本編
「いってらっしゃい」
じゃあ、とか、また、とか、さよなら、とか、別れ際の言葉を嫌う親友は必ずいってらっしゃいと言う。
それはいつものことだから多少は驚かないが今日はちょっと違った。
見送りの言葉と共にぽんと渡された小包を反射的に受け取ってしまったものの、意図がわからず固まってしまったら暁は悠太が機嫌を損ねたと思ったらしい。
「あれ、違った?」
「……何がだ」
「開けてみてよ」
言われるがままに開けてみれば、タグこそ切ってあるものの新品のスリッパだとわかる。
しかもかなり悠太の好みだがそれ以前に、にこにこしている目の前の男が恐ろしい。
「あ、よかった。外したかと思ったよ」
「なんでスリッパなんだ」
「あれ、違った?これから使うと思ったんだけど」
「……違わない」
だが今日スリッパが必要なのは一言も話してないはず。
「ならいいじゃん。いってらっしゃい」
まだ動けない悠太の肩をつまみ回れ右をさせ、肩甲骨がとんっと押されるともう振り返れない。足が機械的に動いて、改札をくぐって、どんどんあいつから離れていく。
お礼を言ってないと気づいたのは電車に乗り込んだあとだった。
おわり。