番外編
「デートしない?」
何気なさを装って秋一に訊ねてみたが鋭く睨まれその先が続かない。
「僕の気持ちを知っているなら、ふざけてでもそんなことは言わないでほしい」
溜め息と共に吐きだされた言葉にごめんと謝ると謝るくらいなら最初から言うなと蹴られた。
彼の言うとおりなので甘んじて蹴りを受け入れると秋一はばつが悪そうに目を逸らした。
「じゃあ、さ、遊びに行かない? 親友同士で」
「知人、な」
「はいはい。友達同士で行く場所、なー。カラオケとかお買いものとか?」
言うなり、彼は嫌そうに眉間に皺を寄せたので別の案を探すが思い当たらない。
「秋一はどこか行きたい場所、ない?」
「岸本の家でごろごろしていたい」
「それじゃあいつもと変わらないよ」
「……岸本。いったい何がしたいんだ」
「いつも家でつまらないからどこか外に行きたいと思ってね」
「僕は嫌」
会話終了。ごろりとソファに寝転がりこちらを見上げてくる秋一と視線が交差する。
「秋一は、冗談でも俺とデートを楽しもうとは思わないんだね」
「終わった後が虚しいからな」
ふっと笑って言った彼を無性に蹴り飛ばしたくなって深呼吸をした。
感情が削げ落ちていくのがわかって、これじゃあ彼を理系人間なんて言えないな、なんて思いながら馬鹿なことを訊いた。
「なんで俺にアタックしないんだ」
「返してもらえない想いなら、いらない」
「秋一、デートしようよ」
「面倒臭い」
くるりと岸本に背を向けて、秋一は眠り始めてしまった。
「お礼の、つもりだったんだけどな……」
一人暮らしの岸本。週末は殆ど一人で寂しかった。そんなこと、秋一には絶対に言わないけれど、来てくれて嬉しかった。
けれどそれが彼の心を傷つけてしまったならしょうがない。
我ながら無粋なことを言った、とも思う。
彼の髪を撫でると、ばしっと叩き落された。
まったく同じ身長の君をお姫様抱っこはできないけれど、王子さまのキスなら、してあげるのに。
おわり。