過去編
休み時間。
頬杖をついて虚空を睨み続ける秋一を岸本瑞樹(きしもとみずき)は見ていた。
数学が得意。国語は苦手。物理が大好きで英語は見たくもない。
そんな岸本秋一(きしもとしゅういち)を単なる理系人間だと片付けていいものだろうかと思ったところでチャイムが鳴る。
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中学3年生で、初めてクラスメイトになった。
自分と同じ名字を呼ぶ気にはなれなかったから岸本は彼を秋一と呼んだが、彼はまったく気にしていないようで。
9番、と呼ばれたときには自分のことだと思わず気づかなかった。
だってまさか出席番号で呼ばれるなんて思わないよね普通!
「なんだ不満なのか」
「当たり前だよ、俺は囚人じゃない」
「その言い方は囚人に失礼だ」
なんだこいつ、と岸本は呆れ果てたが秋一は何が不満だと言いたげに眉間に皺を寄せた。
「じゃあ、岸本でいいな」
「――同じ名字って呼びにくくないの?」
「記号だろう」
俺の先祖に謝れ、とか、俺にだって瑞樹って親が考えた立派な名前があるんだ、とか言いたいことは山ほどある。
しかし秋一はもう岸本から興味を失ったようで次の授業の予習を始めていて。
ああ真面目だね、なんて妙に物悲しく心の中で呟いて机に突っ伏す。
とりあえず、この変なクラスメイトにはあまり関わらないようにしよう、と岸本は固く心に誓った。
おわり。