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 自分の持ち物には名前を書きましょう。
 担任に言われた。だから、書いた。
 1ねんAくみ みくりやりく

 ――幼馴染の、頬に。


 小学校1年、あの頃の話になると初恋とかゲイとか言われてからかわれるが、そもそも志藤は御厨の所有物だ。そこに恋愛感情はない。自分の物に自分の名前を書いた、それだけだ。

 今でこそ何事もうまくやりすごせる志藤も当時は幼稚園を卒園したばかり。ただでさえ丸い瞳を更に丸くしきょとんとしたまま、御厨を摘みあげる担任を見つめていた。

 御厨は御厨でなぜ叱られるかがわからずにむくれていた。
 当然のことながら、志藤は毎日風呂に入る。御厨の記名も消えてしまう。

 だから、御厨は毎日書いた。
 見えるところに、はっきりと濃く、丁寧な字で。だって、わかりやすく書けって言ったじゃん。

 志藤は自身が御厨の所有物であることを幼いながら正しく認識していた。だから、おとなしくしていた。

「人に名前を書いてはいけません」
「これはひとではありません。おれのしょゆうぶつです」

 懸命に教師たちに立ち向かったが誰も聞き入れない。
 母が呼び出された。
 父が呼び出された。

 保護者を交えた担任との話し合いは延々と続く。
 段々と表情を無くしていく御厨に、志藤は笑って言った。

「おれ、ちゃんとじぶんでかいてる。りっくんはなにもしなくていいよ」

 捲り上げられた制服の左袖の下には、志藤の字で御厨の名が記されていた。

「どこにいってもおれはりっくんのものだから、だいじょうぶなんだよ」
「あたりまえだ」

 中学生となった今でも続いていることは、御厨と志藤、それにもうひとりの幼馴染、東しか知らない。




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