図書室の主 | ナノ

番外編

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 涙が出てきそうで、秋一は自室に戻ってベッドに顔を埋めた。
母を裏切っているという後ろめたさ。でも、それ以上に今が幸せで仕方がない。

 秋一の恋人、瑞樹は友人がたくさんいる。
 高校まで男子校だったから浮いた話もなかったけれど、大学は共学。

 面倒見がよく、優しくてついでに顔も悪くはない瑞樹はきっと女の子たちにもてるに違いない。
 なのに、瑞樹は秋一を選んでくれた。

 嬉しくて、でもそれをうまく表現できなくて苛立ちが募る。
 そんな秋一の頬をふにふにと突いて、幸せそうに笑う瑞樹を見ていたら、もうこのまま言葉にしなくてもいいかな、なんて。

「瑞樹」

 そっと声に出してみると恥ずかしさで居たたまれなくなりベッドの上でジタバタと手足を我武者羅に動かす。
 少し落ち着いた。

 この先ずっと瑞樹を好きでいることが幸せなのか。
 それとも、瑞樹と別れ異性を好きになった方が幸せなのか。

『俺は秋一がいいの』

 言い切ってくれた恋人を信じることができないのは、自身が臆病だからだ。
 親友のままでいた方が、傍にいることのできる期間は長かったんじゃないか、なんて思いたくない。

 今が、幸せだから。
 いつか別れる時が来るとしても、きっと悔いはない。

「僕も、瑞樹がいい」

 別れがこんなに怖いなら、早く別れてしまえばいい。
 起き上がり、机の上の携帯電話を手に取る。
 再びベッドに寝転がり、瑞樹の番号を選ぶ。

「……」

 押せない。
 自分からは別れたくない。
 せっかく瑞樹が選んでくれたのだから。
 瑞樹に捨ててほしい。


おわり

20121219



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