図書室の主 | ナノ

いつか本気で恋をする

しおり一覧

I have a child who is my niece and bring her up as my daughter. Her name is Asahi. I named her. She is my sister’s baby, but I robbed my sister of her. I always bother about Asahi’s happiness. Is my decision wrong? What is a true choice? I cannot help praying for us. Someday, we can smile from the heart.

(俺には子どもがいる。姪だが俺の子として育てている。名前は朝陽。俺が名付けた。朝陽は俺の姉の子だったけれど、俺は姉から朝陽を奪った。俺はいつも朝陽の幸福について悩んでいる。俺の選択は間違っていたのか。何が正しい選択だったのか。俺は祈らずにいられない。いつか俺たちが心から笑えるように)

*****

 娘の朝陽が期待に満ちた瞳で名賀暁を見上げる。
 その頭を撫でてやりながら、暁は見えるはずがないと知りつつ先程朝陽から手渡された封筒を光に透かしていた。

 この封筒はあれだ、たぶんだけれども招待状。
 幼稚園のイベントが多いことは身に沁みていたが、今世間を賑わせるイベントはない。

「親子の関わりなんて家で十分だ!」と叫びたくなるのを堪え、名賀暁は娘の手から丁寧に糊付けされた封筒を受け取る。
 だいたい両親揃っているのが前提の幼稚園イベントなんていらないだろう。片親の子はどうすればいいんだ、これを機に再婚しろとでも言うのか!?

 いや、暁は既婚歴がないから初婚だがまあそれは置いておくとして。
 朝陽が入園したときから親子の関わりイベントは覚悟していたが……。

「おとうさん、あけないの? あさひがあけようか?」
「大丈夫だよ朝陽、ありがとう。俺は今、心の準備をしているだけだから」
「こころのじゅんび」
「そう」
「なさけないなあ」

 ぐさっとくる台詞。育てているのは暁だが、つくづくあの姉の子だなあと思う瞬間だ。
 名賀暁の姉、真朝が未婚のまま朝陽を生んで3年が経った。
 朝陽は暁の籍に入り暁の子として育てられているがそれを知るのは暁と真朝、そしてふたりの知人である緒方だけだ。

 鋏を手に取り、綺麗に封筒を切っていく。藁半紙の上のインクが僅かに滲んでいる。

『親から子へ命の大切さを繋ぐ』

 子どもが生まれた日のことを聞かせてやる企画らしい。
 朝陽の生まれた日のことは暁も鮮明に憶えている。――忘れられるものか。

「朝陽。パパとママ、欲しい?」

 躊躇なく縦に振られる首。
 笑おうと口角を上げようとして、唇が歪んだ。

「じゃあ、真朝の家の子どもになる?」
「おばさまの?」
「そう。伯父さまと伯母さまの子になるの」

 昨年、真朝は朝陽の父親である西原と結婚した。
 西原は朝陽の存在を知らないが、真朝はこの子を引き取りたがっている。
 戸籍上は養子になってしまうが、血縁は本来の両親だ。その方が朝陽にとって幸せならば――。




*前次#
backMainTop
しおりを挟む
[1/2]

- ナノ -