図書室の主 | ナノ

Lovely days

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 彼に暴行を加えられたり乱暴に抱かれたり、そんな日常は葵たちに悟られていないと思う。
「ッ……!」
 声を殺して耐える。
 あの子たちにとっては、いい父親であってほしかった。
 今日もまた、無言で一日が過ぎていく。

*****

「溶かしただけじゃないか」
 茜の飾り付けたチョコレートを見て彼が呆れたように言った。
「いいじゃん、別に。恭ちゃんの手も湯煎と流し込むの以外は借りてないし」
「……殆ど恭介がやってるじゃないか」
「いいのッ! お父さんはあっちに行ってて」
 きっとどこの家庭にもある風景に恭介は吹き出した。
 無表情だが彼が落ち込んでいるのに気づき、慌てて彼の背中を叩く。
「大丈夫、大丈夫だよ。きみの子だもん。料理もきっと上手いって! まあ、すみれちゃんに似たらどうかわからないけど……」
「お前だって最初は似たようなものだったじゃないか」
「俺はすぐに克服しーまーしーたー」
「まあ、確かに」
 ほら、ちゃんと笑える。
 大丈夫だ。俺さえ黙っていればこの日常は守れる。
「恭ちゃん」
「ん?」
 振り返ると茜が試作品を恭介に放り込んでくれた。
「どう?」
「おいしいですよ。……あ」
 にっこり笑って言ったあとで気づいた。彼がこちらをじっとりと睨んでいた。
 茜はにやにやと笑っていて、あてつけだったのだと気づくも遅い。
「ちょ、真司、これはね、不可抗力で」
「茜、俺も欲しい」
「努力を認めてくれない人にはあげないもーん」
 紙袋にクラスメイトたちへのプレゼントを仕舞った茜が階段を駆け上がっていく。



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