Lovely days
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板チョコを湯煎にかけて、型に流し込む。
チョコボールを載せたりアイシングで飾りつけたり、茜はとても楽しそうだ。
「ラッピングは一個だけ見本を置いておきます。あとは自分でできますね?」
「うん! 恭ちゃん、ありがとう!」
「いいえ。どういたしまして」
火傷の心配がなくなったところで、恭介に構ってもらえず拗ねて部屋に引き籠った葵の様子を見に行くことにした。
「遅いよ、恭介」
「はいはい。すみません」
部屋をノックして入ると、茜の双子の弟、葵がベッドでヴィオラを抱き抱えてこちらを恨めしげに見ていた。
「なんでチョコひとつで騒ぎたてるかなあ」
「それはもらえない人間の僻みというものです」
「ッ、ちがッ、俺は茜と恭介がくれるからもらえない人間じゃないッ!」
「……普通は家族以外の女性からいただく人がもらえる人なんですけどね」
「恭介は古いんだよ! 今は友チョコとか世話チョコとか……ッ」
「どちらにせよ、他人からじゃないですか。ああ、私も他人でした。よかったですね。ひとつはもらえますよ」
にこりと微笑むと機嫌を損ねた葵が恭介に背を向けた。幼い頃から恭介の子に間違われていた葵は3姉弟の中で一番恭介に懐いている。
「葵くん」
静かに呼びかけると、そろりと振り向くかわいい子。
「他人じゃない」
「……え」
「恭介、わかって言ってるでしょう。だから俺は腹が立つ。恭介は、他人じゃない」
「……ありがとう、葵くん」
この真っ直ぐさはきっと彼に似た。
神さま。
すみれちゃん。
どうかこのまま、健やかに。
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