図書室の主 | ナノ

Lovely days

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「まあ、確かに」
「恭ちゃん!」
「うるさい!」
 ぷいと薫がそっぽを向き、茜が悲鳴をあげると葵が廊下から顔を覗かせ怒鳴った。
 階段を駆け下りてきたらしく、息が上がっている。
「じゃあ、そろそろ夕食にしましょうか」
 緒方家の子どもが揃ったので声を掛けると、3人は神妙に頷いた。


 従妹のすみれが亡くなってから、恭介はその子どもたちの世話をしていた。
 すみれと兄妹同然に育ってきたことやすみれの夫真司と中学時代から親しかったことが理由だと周囲は言う。
 その度に恭介は痛む胸の奥に気づかぬふりをする。
 親しいの一言では語り尽くせない。
 彼を、愛していた。
「……」
「あ、お帰り。お仕事お疲れ様。お風呂は今、葵くんがあがったばかりだから温かいと思うよ」
 玄関に佇む気配がしたから迎えに出てみれば案の定、家主の緒方真司がいた。
 今日も何かあったのだろうか。半ば諦めに近い気持ちで恭介は彼に歩み寄る。
「……」
「ほら、真司。早くお風呂入ってきて」
 靴を脱いだ彼に首を絞められる。
 ああ、やっぱり。
 息をしようともがけばもがくほど時間は長くなる。恭介は強張りそうになる体の力を抜き、耐える。
「ッ、かはッ」
 床に手をつくと涎が零れた。
 顔をあげるとこちらを冷えた瞳で見据える彼と目が合った。
 もう抵抗はやめた。
 どんな手段を使っても彼の傍にいたかった。――彼女の子を守りたかった。
 彼は無言で風呂場への階段を上っていく。恭介は彼の触れていた場所をそっと撫でた。
 怒ってはいけない。
 子どもたちの前では暴力を振るわないという約束を彼は守ってくれているのだからこれくらい我慢しなくては。



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