Lost memory
頬を押さえ、瞳を見開いた彼が、次第に笑みを形作る。
「――熱烈だな、恭介」
言葉は皮肉っぽくても嬉しさは隠せてないよ、きみは――。
期待で胸が高鳴っていく。
いや、もし駄目だったときはがっかりしてしまうから、駄目もとで――ッ!
「俺が誰かわかる?」
「恭介だろう」
怪訝そうにこちらを睨む彼は、いつもの緒方真司だ。
「あー……」
安心しすぎて涙が出てきた。
「おい、どうした恭介」
「ごめん、真司。葵くんたちにきみの姿を見せてあげて」
「葵? 葵がどうかしたのか」
「もう、いいから行ってよ」
片眉を器用に上げた彼は肩を竦めると、2階に上がっていった。
程なくして2階から聞こえてきた歓声に、恭介はひとり微笑む。
*****
「この写真はすみれさんが持っていた」
「俺も持ってるけどね」
風呂も上がり、久々に自分のベッドに寝転がって枕を抱えて向かいの彼を見る。
彼は先程の写真を矯めつ眇めつ眺めている。
「それ、俺のだよ」
「そっくりだ」
「さっきは“名賀と同じくらい似てる”って言ってた」
「……へえ」
「確かにあの双子、そっくりだよね」
居心地の悪い静寂も、今は幸福感でまったく気にならない。
「ねえ、真司。再婚は嫌?」
「お前がいるから」
素っ気なく言った彼が近づいてくる。彼の手の感触は慣れた。
「俺がお前を好きだと言っても、信じないだろうな」
うん、信じない。絶対に、認めない。駄目なんだ、それは。