図書室の主 | ナノ

Lost memory

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 年齢のことを言うと彼は不愉快そうに眉間に皺を寄せた。
「お前とすみれさんの写真はないのか」
 驚きで包みを落としてしまった。彼はちらりと恭介を見ると包みを拾い、恭介に手渡した。
「見られたら嫌なものなんだろう。しっかりと持っておけ」
「うん……。ごめん」
 すみれさん。
 彼独特の発音を久し振りに聞いた。
「自分の奥さんだから呼び捨てにしよう、なんて思わなかったんだね。きみらしいけど」
「呼び捨てにしてたのか?」
「いや。きみはちゃんとすみれさんと呼んでいつも敬意を払っていたよ。待ってて。中2のときの写真ならすぐに出てくるから」
 包みを抱え、階上にあがる。振り返ったとき、彼はぼんやりと宙を見つめていた。


「……名賀たちと同じくらい似てる」
 しげしげと写真を見つめ、沈黙の末に彼がぽつりと呟いた。
「ついでに言うと、名賀暁の娘は彼そっくりだよ」
「娘!?」
「……きみ、自分が子持ちだってこと憶えてる?」
「そうだった」
 彼の幼馴染の双子のことを話すとき、彼は僅かに目元を和らげた。
「しかしまあ、これ……。お前が女装したと言われても納得するな」
「嫌なこと言わないでくれるかい。すみれちゃんの方が何倍もかわいい」
「たいして変わらん。――俺は、お前と別れたんだな」
「そうだよ」
「俺はお前にひどい仕打ちをしたか」
 確信を持った響きだった。
「俺がお前を嫌いになるはずがない。――そんなことがありえないくらい、小学生にでもわかる。だけどお前は否定しなかった」
 彼の唇から目が離せない。
 思い切り平手打ちをした。音は聞こえなかった。
「見くびらないでくれるかな、マセガキ」
 今、ここにいるのは彼じゃない。
「俺は、笹原すみれを愛した緒方真司が好きなんだ」



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