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Lost memory

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 暗く沈んだ声は泣きだしそうに歪んでいた。
 その頬に手を伸ばそうとすると、ぱしんと小気味いい音を立てて弾かれた。
「恭介。泣かないで」
 あいつそっくりの葵がミラー越しに真司を睨みつけながら言った。
「おい、ちょっとお前――」
「謝りなさい、葵くん」
 あいつが鋭い口調で葵を責めるが葵は抗議するようにずっと真司を睨んでいた。
「葵くん」
「葵、謝れ。一応、父親だ」
 薫が面倒臭そうに兄を窘め、茜は剣呑な空気に全く気がついていない。
 我が子なのだ、とふと思った。思ったところで愛しさが増すわけでもなく、むしろあいつに似ていて苛々する。
「俺は、謝らない」
「葵くん」
「お父さんが元凶じゃんか。いつもそうだ。恭介が我慢してる」
「葵くん。何も知らないのに口を突っ込まないでください」
 葵はぷいとそっぽを向いてしまった。
「……葵」
 呼んでみると面白いくらい動揺が伝わってくる。
 末っ子だった真司にとって、年下の存在は新鮮だった。
「帰ったら、話す」
 一方的に宣言し、ミラー越しに目が合った葵はやっぱり悔しそうに真司を睨みつけていた。

*****

 俺のせいだ。
 どの言葉が引き金になったかはわからないけれど。
 俺の、せい。


 夕食の支度をしている間、いつもはリビングで恭介の姿を眺めたり宿題をしたり読書したりしている子どもたちは自分たちの部屋に籠ってしまった。
 薫は言葉では葵を突き離していたが、なんだかんだで兄が好きなのであのふたりは心配ない。茜もきっと冷静に葵の話を聞いてくれるだろう。



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