図書室の主 | ナノ

Lost memory

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 彼の兄が苦手でなくなる日なんて来ないだろうという呟きは胸に秘めつつ、紅茶を啜ると彼が恭介を凝視していた。
「どうしたの」
「いや、お前変わらないな」
「そう?」
 何も知らない者から見ると変わらないのか。記憶がないとはいえ加害者の本人さえ気づかなかったことに満足し、ちらりと壁掛け時計を見るとちょうどいい時間になっていた。
「じゃあ、行こうか」
「どこに?」
「病院。たぶん一日がかりだからお弁当持って、ああそうだ後で葵くんたちの迎えもあるしどうしようかな――」
「……お前、ついてくるのか」
「そうだけど。あ、卒業アルバム持ってこようか。途中で思い出すかもしれないし」
「いや、その、待て! 俺は幼稚園児じゃないからひとりで病院くらい……ッ!」
「だーめ。ほら、車出すから、鍵掛けて来てね。コップは流しのところに置いといて」

******

 助手席でどうやら自分の物らしい卒業アルバムを捲ると真司は溜め息が出た。
「どう、思い出すことある?」
 安全運転が信条と言い切ったあいつは真司を一瞥することなく訊ねてきた。
「全く」
「んー……。そうか」
「お前、車運転できたんだな」
「人間、必要に迫られるとなんでもできるんだよ」
「……無免許?」
「違うよッ! まったくきみそんなに天然だったっけ!? 言っとくけどこれ、俺の稼いだお金で買ったんだからね!」
 ぷりぷりと怒るあいつは真司の記憶の中にいるあいつと変わらない。
「ちなみに何をしてたんだ」
 あいつの目が泳いだ。運転に集中してくれ。再び溜め息を吐くとあいつがびくりと体を強張らせた。
 ただならぬ様子にあいつをじっくり見ると、あいつは「ホストだよ」とぼそりと吐き捨てた。
「ホストォ!?」



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