図書室の主 | ナノ

Lost memory

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「親友だったってことをね」
「そうか」
 何も知らずに、恭介と彼が親友だったことを喜んでいたすみれを思い出すと恭介は今でも後悔の念に苛まれる。
 彼が躊躇うように口を開いた。
「俺とお前は今、どんな関係なんだ」
「今? 空白の時間は気にならないの?」
「過去がどうであろうと、俺には現状把握が先だ」
「なるほどね……」
 見た目は昨夜と変わらないというのに、中身はいきなり高校生。
 どこまで話せばいいのだろう。
「まず、下の名前で呼んでるよ」
「そうみたいだな」
「今のきみなら俺のことを樋山って言う方が言いやすいと思う。俺も緒方って言うよ」
 彼がほっとしたように頷き、恭介は微笑みながらも心が寂しさに冷えていくのを感じた。恭介のことを憶えていただけでも不幸中の幸いだと思う。
 目線で続きを促す彼を見て、恭介は必要であろうことを頭の中を整理する。
「うーんとねえ……。俺がすみれちゃんの代わりに家事をやって、ここに住んでる」
「いつからだ」
「すみれちゃんが亡くなったひと月後くらいかなあ。あの頃はばたばたしててよく憶えてないんだよね。薫くん――えーっと今、小4なんだけど、生まれたばかりでさ。俺の伯母、つまりきみの姑がお世話してた」
「俺を起こしに来た子か」
 そういえば3姉弟の説明もしなくてはならないのか。なんだか不思議な気分だ。
「いや、あれは葵くん。俺に似てるって思うかもしれないけど、すみれちゃんと俺がそっくりだったからで、間違いなくあの子はすみれちゃん似だね」
「……わからない」
「だよねえ……」
 ふたりでしみじみと溜め息を吐くと笑いが込み上げてきた。
「緒方が俺のことを憶えていてくれてよかった」
「どういう意味だ」
「だって、きみのお兄さんや幼馴染まで引っ張り出してこないといけないじゃない」
「まだレイが苦手なのか」
「……まあね」



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