本編
「大丈夫だ岸本、僕は君が好きだ」
「それはさっき聞いた」
ああもう埒が明かない。
息を吸って、不正解を彼に囁く。
「秋一が俺を壊せたら、好きになるかもしれない」
我ながらひどいこと言ってると思う。
案の定、秋一は眉間に皺を寄せた。
「僕を、ひとりにしないで」
「秋一、答えてよ」
秋一の、光を消した瞳が岸本を捕らえる。
ああ、そうだ、高校時代はこんな目もしていたっけと懐かしく思っていたら背後から彼に抱きかかえられた。
肩口に彼の鼻があたってくすぐったい。
「ひとりに、しないで」
「いつか壊してやるって言ったくせに」
すり、と首筋を彼の頬がなぞる。
体温を求める、ということは秋一は今すごく悩んでいるということで。
伊達に6年目の付き合いに突入していない。
待っていれば口を開くだろうと岸本は体の力を抜いて秋一にもたれかかった。
驚いたように秋一が身じろぐ。
「僕には、目標がある」
ぽつりと秋一が呟いた。
知ってるよ、秋一。
だから君は浪人して、でも掴めなくて、目標に近い場所へ入学して。
――目標を諦めきれなく、て……?
なにかが脳裏に閃く。
「岸本、今はそれしか言えない」
そうであったらいい、と思ってしまった。
同時に彼らしい、とも。
「じゃあ、三カ月も音信不通だったくせに今日、俺のところへ来たのは?」
たったひとつの可能性なのに、声が弾んで彼の目を覗きこむ。
探しまわったことを、恩着せがましく言うつもりはない。
ただ、高校時代の同級生たちは今も時折心配しているだろう。
「――夢を、掴めるかもしれない」