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皮肉気な答えはいつもの彼だ。
「まったく律義だなあ。俺もお前も」
「そう?」
「俺とキスしようがなにしようが、相手のお嬢さんにはわからんだろうが」
「娘がいる男の台詞とは思えないね。彼女にはわからないからこそ、後ろめたいことはなしだ」
彼は黙り込んだがその顔には「呆れた」と書いてある。
口を開こうとした恭介も噤んだ。
扉の外に、誰かいる。
「どうしましたか」
恭介が問いかけるとノックの後に「葵です。入っていい?」と返事があった。
彼が頷き、「いいぞ」と言う。
「お風呂あがりました。あとはお父さんと恭介だけだよ」
「わかった」
「ありがとうございます」
葵がじっと恭介を見つめる。
「どうしましたか」
再度の問いにも曖昧に首を横に振り、部屋を出ていった。ぼすりと音を立てて仰向けに彼がベッドに寝転がる。
「お前、葵には言ったのか。好きな女性がいると」
「まだだよ」
「伝えてやれ」
「……どうして」
皮肉っぽく細められた瞳と僅かにあがった口端に、恭介は愚問だったと唇を噛みしめる。
「あれはお前のことが好きだぞ」
「だから何。きみ、自分の息子までホモにするつもりかい?」
「まさか」
素っ気なく返しても彼は特に傷ついたふうもなく、寝返りをうち頬杖を突く。
「家族なら、知らせてもいいだろう」
そんな彼の髪をくしゃりと掻き混ぜて、うっかりときめいたなんて言えない。指先に彼の髪を絡め、恭介は溜め息を吐いた。
「お付き合い始めました、って? きみ、俺と付き合ったときおばさまに言ったの?」
「今日のお前、おかしいぞ」
彼は答えなかった。飾られていない言葉は恭介の胸に深く突き刺さり、起き上がった彼にとんと肩を押されても逆らえずベッドに沈んでいく。