Latest news
恭介が扉をノックしても返事はなかった。
深呼吸して入ると、彼は布団を被って丸くなっていた。
「真司」
「うるさい、寄るな。――これから、ひとりに慣れなきゃいけないんだからな」
愛想のない返事は固い決意を感じさせ、彼なりに恭介の背中を押してくれていることがわかる。声には涙の跡もない。
「ねえ、真司。俺がお付き合いを始めた時点でちゃんときみに伝えるべきだった。たとえ、きみと付き合っていないにしても。記憶がないときのきみが俺を他人ではないと言ってくれた。なにも知らない緒方真司から見て、俺は他人ではなかった」
「なにが言いたい」
「嬉しかったんだよ、俺は」
「なのに離れるのか」
布団越しに彼を包み込むと、彼の体が強張った。
「そうだよ」
最後の思い出に抱かれる、なんて未練がましいことはしない。
きっと梓紗とは数ヶ月もしないうちに別れるだろう。そのとき、恭介はこの家を去るつもりだ。
せめて薫が小学校を卒業するまでとか、今すぐにでもとか。
一貫性のない考えに自分でも呆れてしまう。
「ただの親友に戻るだけだよ。一度、できたんだ。また、親友に戻れる。永遠に」
「言い訳がましい」
「俺もそう思う。すみれちゃんの亡くなった後、きみ、なんて言ったか憶えてる?」
「今だって、彼女はいない」
「『お前が俺に恋しなければ』――きみはそう言った」
あのときはみな、気が動転していた。
だからここで言うのは卑怯だとわかっている。
彼が布団から這い出る。明るい茶色の瞳は、鋭さを湛えたまま恭介を射抜き。
「俺もそう思う。きみに恋しなければよかった。もっとまともな人生があった」
見開かれた彼の瞳、徐々に絞まっていく首、なぜか世界は鮮明になっていく。
「お前はなにをしたいんだ」
さあね。
答えようとして、雪崩れ込んできた酸素に声を奪われる。
「俺の幸せを願ってくれる?」
「喜んで」