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 鏡を通して、俺が彼女を見ているから――。

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 幼馴染の瑞樹が恋人と別れた日、恭介は瑞樹に抱かれた。
 恭介が初めてだということはもちろん瑞樹も知っていて、更に彼と付き合っている最中だということも知っていて、そして恭介自身も自棄になっていて。
 彼を抱かないと決めていた。この恋は一時のもので、いつか彼に素敵な女性が現れたら身を引くと決めていた。なのに彼を抱きたいと思う自分を持て余し、瑞樹の傷心を利用した。
 瑞樹に抱かれながら彼を抱く様を思い浮かべ、瑞樹は瑞樹で恋人の名を呼び、それ以降体の関係はずるずると続いた。彼を裏切っているにも関わらず、罪悪感はなかった。
 幼稚園に小学校。
 中学校で恭介が彼に逆上せあがるまで、いつも幼馴染4人で駆けまわっていた。
 恭介は特に瑞樹に甘えていた。
 ひとりっこの恭介と長男である瑞樹は波長があったのだと恭介の母親は言っていた。
 中学に上がり、高校に上がり、恭介は彼だけを見ていたけれど、幼馴染で親しかったから高校卒業後も瑞樹とは会っていた。
 小学校5年生のとき、瑞樹に妹が生まれた。
 瑞樹の家に入り浸っていた恭介に、瑞樹の妹梓紗はよく懐いていた。
 大学に入学してからというもの梓紗に会っていない。恭介の思い浮かべる梓紗は、いつも幼い姿。
『恭介、恭介』
 にこにこと笑いながら、ついてきた彼女。――もう27か8のはずだ。
 瑞樹との体の関係は唐突に終わる。
 瑞樹が恋人と縒りを戻し、駆け落ちしたのだ。同性の、恋人と。
 そして恭介は一度だけ、彼を抱いた。
 その直後だ。
『恭ちゃん、私、結婚するの』
 ――すみれの知らせに喜び。
『俺、結婚する』
 ――彼の知らせに、目の前が真っ暗になった。あのとき、自分はちゃんと言えたはずだ。
『おめでとう、真司』
 裏切られたと思った。彼とはその数日前に別れていたし、恭介だって瑞樹との関係があったくせに。けれど、別れの痛みよりも彼が結婚する痛みの方が強かった。



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