図書室の主 | ナノ

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 3姉弟の落胆を思うと恭介はさらに気分が落ち込んできた。
「恭介」
 呼びかけられ、振り返ると薫がいた。こちらを射抜く薫は彼そっくりの鋭さを剥き出しにして恭介に迫ってくる。
「おじさまが学校に送っていってくれるって。帰りも、ここに帰って来いって。どういうことだ。治ったんじゃないのか」
「それを確認するために、病院に行くんですよ」
「嘘つきッ! だったらなんで朝っぱらから俺たちがここにいるんだよッ!」
 昨日から我慢していたのだろう。薫の瞳からぼろりとひと粒の涙が零れ落ちた。
 薫自身、感情を持て余しているようで呆然としている。
「薫くん」
「ッ、触るな……ッ!」
 抱き締めようとしたら手を叩かれ、さてどうしたものかと考えていると、薫の体がふわりと浮きあがった。
「大人相手にそんな態度を取るものではないと思うが」
「おじさま……」
 恭介が呼ぶと、薫は祖父の首筋にしがみつき、声を上げて泣き出した。
「朝早くから、すまなかったね。なかなか起き上がれなくて」
「あ、いいえそんな。こちらこそ、その、御無沙汰しております。朝早くにすみません」
 彼の父はぽんぽんと薫の背を叩きながら、恭介へ優しく微笑みかけてくれる。恭介がとんでもないと首を横に振ると、おじさまは「椅子を出してくれるかい」と困ったように言った。
 長時間、孫を抱っこし続けるのは体力的に厳しいのだろう。
 おじさまの膝の上で泣き止んだ薫はじっと恭介を見つめている。
「薫」
「……恭介、ごめんなさい」
 おじさまが静かに呼ぶと、薫が小さな声で謝った。


 朝ご飯を食べる最中も、怜司に連れられて出ていくときも、3姉弟は無言だった。
 抗議するように時折恭介を睨みつけては目を逸らす。
「いってらっしゃい」
 それでも恭介はいつもと変わらぬ笑顔で3人を送り出した。
「恭介」
 玄関の扉に鍵を掛けようとしたとき、葵がひょっこりと顔を出した。



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