図書室の主 | ナノ

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 今それを言うなんて卑怯です、先輩。
「だから、俺はお前を利用したつもりだ。樋山」
 誠実なのか不誠実なのかわからない怜司が不機嫌そうに歩み寄ってくる。
 至近距離の彼の兄はやっぱり兄弟だと思わせるものがあり、恭介はじっと怜司を見つめ返す。
「今、樋山はレイとそんな仲なのか」
 どこかとぼけた彼の声に振り返ると廊下の奥にいた。
「冗談はやめてくれ、シン」
 心底嫌そうに言った怜司が彼と共におじさまの部屋に消えた。
 怜司の部屋に入りたいのだが、勝手に入っていいものかどうかと迷っていると怜司が再び姿を現し、ついてこいと言うように扉を指差した。
「この部屋、久し振り……」
 言うつもりのなかった言葉も怜司は聞き流してくれた。
 すっかり眠りこけている3姉弟を起こすのは忍びないが、怜司を振り返っても「お前がやれ」と睨まれた。
「薫くーん。起きてー……」
 手始めに寝起きのいい薫を揺するが、中途半端な時間に起こしたせいかなかなか目覚めない。
 茜、葵を突いても毛布に包まってしまう。
「かわいい」
 でれっとした声で怜司が言い、ああ、今振り返りたくない。
「だったら先輩が起こしてくださいよ」
「嫌だ」
 我儘、と言いたいのを堪えて、八つ当たり気味に薫の毛布を引き剥がした。
「あああッ!」
「先輩がいけないんですよ、先輩が。俺が心を鬼にしないとね、ほら、愛があるから」
「うるさい……」
「ごめんね、薫くん」「悪かった、薫」
 自分が毛布を引き剥がされたかのように絶叫する怜司と苛立ちを隠そうともしない薫を恭介は交互に見遣り、薫をそっと突いて促すと嫌そうに手を払われた。
「おじさま、おはようございます」
 寝ぼけ眼でもきっちり挨拶する薫に恭介はほっとした。怜司は気に入らないらしく、そっぽを向いている。子どもは子どもらしくがいいと緒方兄弟は言うが、彼の子であると同時にすみれの子でもある。躾に手を抜くつもりはない。
「あう……。おじさまー……おは、す、トイレ!」
 話し声で目が覚めたのか、支離滅裂な言葉を吐いた葵がいきなり起きて廊下に飛び出した。



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