図書室の主 | ナノ

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 差し出がましいと自分でもわかっているが、おばさまはただ頷いてくれた。
「じゃあ、その間に葵たちにご飯を食べさせなきゃね」
「学校までは俺が送る。そのまま出勤するから。――いいですよね、お母さん」
「もちろん」
 怜司がキッチンの入口に立ち、腕組みをしていた。
「樋山、ちょっと来て」
 母親の前だと言葉遣いが綺麗になるこの兄弟には慣れた。
「いいのか?」
 廊下に出ると、おばさまにも、彼にも葵たちにも届かない距離で怜司は恭介を振り返る。恭介は肩を竦めた。
「何がですか」
「お前、利用されてるって思わないのかよ」
「利用しているのは俺の方です、緒方先輩」
「俺は綺麗事が聞きたいんじゃない」
 元不良の目つきに怯むこともなく、恭介は冷めた目で怜司を見返した。
「何を言わせたいんですか」
「潮時だ」
 怜司は苦々しそうに吐き捨てた。
「シンとお前がただの友人に戻るチャンスだって言ってんだよ」
「もし彼が記憶を取り戻したら?」
「その前にお前が消えろ」
「そんな無茶な……」
「お前がいなくてもなんとかなるんだ」
「ええ、わかっています」
 彼と恭介の関係を知る数少ない人。
 おばさまだって、真実を知っていたら彼に近づけてはくれないだろう。
 笹原の伯母も。
 ――すみれも。
「俺はお前の幸せなんてどうでもいい。俺はシンがお前のせいで傷つくのはうんざりなんだよ」
 さすがにそれはあんまりです、先輩。
 だってあなた、何もしてくれなかったじゃないですか。
 すみれちゃんを失い、呆然とする彼を突き離し。
 あの状況で、誰が彼と3姉弟の世話をできたと言うんですか。
「お前がシンと従妹のことをどれほど愛していたか俺は知ってる」



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