図書室の主 | ナノ

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 最悪だ。彼と一番険悪だった時期を言われ、恭介は目の前が真っ暗になった。
 怜司が溜め息を吐き彼の上から退くと、彼は身を起こして胡坐を掻いた。
「お前、樋山なのか」
 彼の明るい茶色の瞳が澄みきっていて、恭介は怯む。
「そうだよ――緒方」
 怜司が息を呑む音は聞かなかったことにした。
「きみの卒業アルバムだよ。すぐには理解できないだろうけど。じっくり見て――ああ、眠っててもいいよ。今日は病院に行こう」
「誰と?」
「俺と」
 彼が怜司をちらりと見ると、怜司はゆっくりと大丈夫だと言い聞かせるように頷いた。
「わかった。お前と一緒に行く」
 その様子があまりにも落ち着いていたので恭介は不安になった。
「ねえ、緒方……。俺から言いだしておいてなんだけど、きみは俺と一緒に行っても不安ではないのかな」
「もし危険があった場合はレイが止めている。今、何時だ」
「もうすぐ6時だけど……」
「シンは時間までお父さんの部屋で寝ておけ。シーツ交換してくるから待ってろ」
 怜司が冷静に言うと、廊下へと姿を消す。
 葵たちと会わせないようにするためだとすぐにわかった。
 彼はじっと恭介を観察しているようで、恭介はキッチンへ行きたいのを我慢していた。
「はい、交換終わり。お父さんには事情を簡単に説明しておいたから大丈夫だ」
「うん……。俺の部屋は?」
 恭介は無表情を保ち、怜司は少し罰の悪そうな笑みを浮かべた。
「悪いが、俺がぐっちゃぐちゃにしていてシンを入れられる状態じゃないんだ」
「俺は今、何歳なの?」
「――38歳。仕事の休みの連絡は俺が入れる。心配しなくていい」
 それ以上聞いていたくなくて、恭介はキッチンへ向かった。
 おばさまは恭介の気配に気づいたようで、にこりと笑って振り向いてくれた。
「真司くんは、14歳らしいです」
「そう……」
 恭介が呟くと、おばさまは微かに目を瞠り、そして悩みの籠った息を吐いた。
「葵くんたちのことは、どうかしばらく内緒にしていてください。今からおじさまの部屋で彼が寝ます」



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