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「真司、起きて」
 彼の傍らに膝を突き、揺さぶるが起きる気配がない。
 おばさまがキッチンへ姿を消したので恭介が怜司に向き直ると怜司が嫌そうに片眉を上げた。
「先輩、一服盛ってませんよね?」
「お前本当に失礼だよな」
「すみませんね、俺も相手を見て言ってるものですから。はさみ、ありますか」
「……解くのか」
「ええ」
「俺でも押さえきれないぞ、たぶん」
「そんなに暴れたんですか」
「暴れる予感がしたから縛ったんだよ。誰が好き好んで弟をこんな格好にするか」
 苦々しい声に恭介はさすがに自分を恥じた。
「でも、やっぱり解きます。はさみと鏡をください」
「取ってくる」
 怜司がいなくなると、恭介は自身の鞄から彼の卒業アルバムを取り出した。
「はい」
「ありがとうございます」
 お礼を言って彼の腕の縄を切ると彼が壁に沿ってごろりと転がった。
「起きて。ねえ、真司。起きてよ」
 声を掛けながら揺さぶると、彼はうっすらと目を開けた。
 いきなり恭介の腹が蹴り上げられる。痛みで頭の中が真っ白になっているうちにどすんと鈍い音が響いて彼が床に転がり、怜司がその上に馬乗りになっていた。
「……ありがとうございます」
「いいから早くしろ」
「はい」
 怜司と無言で怜司を睨みつける彼の間に鏡を挟む。彼は何が起こったかわかっていないようだった。昨日と違って、動揺した様子はない。
 ゆっくりと鏡を外し、険しい顔つきの彼と目が合う。胃の奥が痛い。恭介は息を吐いた。
「真司。俺が誰だかわかるかい?」
 彼は無言だった。怜司と目が合う。怜司は「落ちつけ」と言うように一回瞳を閉じた。
「じゃあ、この人は?」
 彼は何も語らない。落ちつけ。焦っちゃ駄目だ。
「俺は樋山恭介。こちらはきみの兄の緒方怜司だよ。きみ、今自分が何歳だと思ってる?」
「14歳……。なったばかりだが……」



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