Last concert
「わかってる」
面倒臭そうな彼と、飛び上がって喜ぶ茜と葵、うんざりしたように溜め息を吐く薫。
すべて、彼女が愛したものだ。
和室に布団を彼とふたりで敷く。
「お前」
「ん?」
「――おばさんが来たらしいな」
「ああ、そのこと」
すっかり忘れていた。
名賀が話したのか。
「悪かった」
「え?」
「よくわからないけど……悪かった」
「俺もなんできみが謝るかわからないけど、でも、ありがとう。大丈夫だよ。今回の件で俺も考えた。もうすぐ俺、出ていくから。きみたちに危害は加わらない、と思う……。本当はすぐに出ていくべきだってわかってるけどもう少し」
「ッ、そんな話じゃない。ここにいていい、いつまでも――お前が望むならば」
子育てが面倒だから、とか、家事ができないから、とかそんな理由じゃないことはわかっている。
彼は子どもたちを不器用ながらも愛していたし、家事は未だに恭介よりも得意だ。
「この言い方は卑怯だな、悪い……。俺が、お前を手放せないだけか」
自嘲気味に笑いながら、彼が呟く。
「名賀に、なにか言われた?」
「なにも」
「本当に?」
「本当に。今更、嘘を吐いてどうする」
「中学のときの俺が聞いたら喜んだだろうなあ」
「……そうだな」
彼はふうと息を吐いた。
「『明日はみんないないから』。茜たちに、言ったのか?」
「知る必要がないから、言ってない」
「俺たちがいないから、ってことか」