本編
中1の春、じゃんけんで負けた。
いつもなら笑って済ませる樋山の表情も凍ってしまった。
なにせ賭けられていたのは今年一年の係。
図書委員は貸出、返却の管理のため昼休みと放課後、さらには曝書のために休日まで潰れると聞いていたから敬遠されて最後まで残ってしまった。
なんとなく理不尽な気持ちを抱えながらも引き受け、早速委員会召集。
貸出返却管理は中高一貫のため中学生と高校生で組まされ一週間のローテーション。
曝書は休み前にお知らせ。
聞いているだけでげんなりした。
最初の担当の昼休み、図書室に誰もいないことに驚き時間の無駄だと委員長に言ってみたが取りあってもらえない。
パートナーの高校生は諦めろと言った。
こういう人たちが社会に出て人件費を食い潰すんだと思いながらも黙っていた。
次の担当の昼休み、クラスメイトが来ていることに気がついた。
名前は確か、緒方。
幼小中高併設するこの学園で、幼稚園あがりの樋山は中学にあがっても知らない顔だけ憶えればよかった。
知らない顔ということはつまり外部生。
いつもひとりでいて、昼休みになると消えるから噂になり憶えていたがここにいたのか。
その興味も昼休みの終わり近くになると失せて、予鈴と共に図書室を飛び出した。
何回もそんな日々が繰り返され樋山も夏が来るころには無為な時間に慣れていった。
「あれ?緒方くんは?」
だから、あの夏の日、昼休み後の授業に彼がいないときも保健室へ探しに行った保健委員の後ろ姿を見送っただけで。
保健室にいないことがわかると大騒ぎになった。樋山のクラスは自習になり手が空いている先生たちで校内捜索。
ふと閃いたのが授業終了まであと7分のとき。
おとなしく待っていた方がいいと言う級長の制止を振り切って図書室へ駆けると案の定彼が居てほっとした自分に驚いた。
声を掛けても返事がない。無視されてるのかとかっとなって本を取り上げても彼は状況がよくわかっていなくて。
彼を引きずって教室へ戻り先生たちに話すと呆れていたけどお咎めなしだった。
けれど翌日、翌々日と同じことがあり、図書委員である樋山に緒方連れ戻しの命が下された。
なんで俺がと思いつつ図書委員の無駄削減のチャンスだと割り切った。
他に図書室の利用者がいないという証拠を集め、彼を教室に連れ戻すまでが仕事だと委員長に迫るとローテーション制はあっさり解かれ、図書室は実質、彼と樋山だけの場所となった。
それ以来、樋山はずっと彼の傍にいる。
おわり。