図書室の主 | ナノ

Last concert

しおり一覧


 時計は午後6時を示し、夕食にちょうどいい時間。葵の卒業式も控えているから今日は早く寝かせたい。
「私が行ってみるよ。おじさま、いいでしょ?」
「ッ、朝陽、俺のこと疑うわけ?」
「葵くん、謝りなさい」
 朝陽が気を利かせてくれたのに、葵が食ってかかる。
 流石に朝陽も気分を害したようだった。葵がきっと恭介を睨む。
「俺たちの大事な日なのに、なんで朝陽がいるのか、本当に訳わかんない!」
「葵くん」
 なんで、我慢ができないんだろう。
 確かに恭介の配慮も足りなかったが、今日の葵はやはりどこかおかしい。
「どうしたんですか」
 真っ直ぐに葵を射抜くと、葵は歯を食いしばり俯く。
「あー、茜ちゃん、朝陽ちゃんと一緒に、真司たちを起こしてきてくれますか」
「え、うん……」
 茜も戸惑っているようで、弟ふたりと朝陽を交互に見遣り、後ろ髪惹かれるような顔で階段を上っていく。
「葵くん、ごめんなさい」
「なん、で」
「確かに、今日は茜ちゃんの卒業式で、明日は葵くんの卒業式。部外者を入れるべきではありませんでした」
「……ん」
 だからと言って朝陽を不快にしていいわけではないと続けたかったが、恭介はかろうじて言葉を呑みこんだ。
 恭介の葛藤を察したらしい薫がわざとらしく溜め息を吐き、兄の頭を撫でる。
「葵。言いたいことがあるなら、言え」
「……そんなこと、ない」
「じゃあ、そのうじうじした態度をやめろ」
 階段を下りてくる複数の足音に、薫が口を噤む。
「薫」
 怒りを押し込めた声で葵が弟を呼ぶ。
「俺に指図するな」
 恐らく初めての、葵の乱暴な口調に、薫と恭介は固まった。



*前次#
backMainTop
しおりを挟む
[14/21]

- ナノ -