図書室の主 | ナノ

Last concert

しおり一覧

「ッ、それはあまりにも心ないぞ」
「だけど、きみは俺に言ったでしょう。仕返しだよ」
 どうでもよさそうに幼馴染は吐き捨てた。
 少しだけ首を曲げると、つらそうな瞳の暁の中に自分がいる。
「きみだけは、幸せになると信じてた」
「幸せ、だと思うんだが」
「そうだね」
 幼子を腕に抱くように頭を抱えられると至近距離であることに今更ながら気づく。
 階段を上る音、ノック、動く気のない自分も自分だが、まったく悪趣味だ。
「お父さん? おとうさーん。開けますよー」
 葵の声と、がちゃりと開く扉。
 いち、に、さん、よん、ばたん。なんだ、意外と反応が鈍いな。
「葵、樋山になんて報告するんだろうねえ」
「悪趣味」
「きみもね。あー、お腹空いた。樋山のグラタンなんて久し振り。きみは?」
「俺も。グラタンは俺が作ることの方が多いからな」
「なるほどね」
「暁」
「ん?」
「お前は、幸せそうでよかった」
 暁が一瞬、息を詰めた。
「ありがとう、緒方」
 泣きそうな声で、暁は微笑んだ。

*****

 夕食の支度ができたから彼と名賀を呼んできて、と葵に頼んだが、葵はひとりで戻って来た。眠っていたらしい。
「先に食べようよ」
「確かに。お腹空いた」
「茜ちゃん、薫くん、ちょっとだけ待ってください。今、考えますから」
 明日、葵たちは祖父母と正式な卒業祝いをするとはいえ、茜が卒業したのは今日だ。ささやかなりとも、みんなで祝いたい。しかし彼らを起こすのもしのびないと、恭介は頭を抱えていた。



*前次#
backMainTop
しおりを挟む
[13/21]

- ナノ -