図書室の主 | ナノ

Last concert

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 どうせきみも手伝うんでしょうとからかいを含んだ視線から目を逸らすと、茜たちから更に追い打ちを掛けられたのか、涙目で俯いている葵がいた。
 本当に、似てきた。
 息苦しさに、真司は目を覆う。
「すみれさんに似てるってわかってるけどさー……」
 あいつとすみれさんの関係を知る暁がぼそりと呟き、真司は我に返った。
「ああ。すみれさんに、似てるな」
 念を押すと、暁が気の毒そうに真司を見る。
 しかし何も言わない。
 喉の奥が痛くなってくる。
 このままだと葵が泣きだす前に俺が泣きそうだと思ったとき、玄関の扉が開いた。
「恭介ッ!」
「恭ちゃんッ!」
「あ、おじさまお帰りなさーい」
 葵たちの背中を呆れ顔で見送っていた薫が真司の視線に気づき肩を竦めた。
「わかってるよ。俺も迎えに行けばいいんでしょ」
 ふたりきりとなったリビングで、玄関の賑やかな会話を聞く。
「緒方、どうしたの。今更じゃないか」
「――あいつが」
「ん? 樋山がどうかした? っと、きみの部屋でいいかな。ここだと話せないでしょう」
 幼馴染の勘というか、苦労の量が違うというか、暁は妙に人の心に敏い。
 苦笑した暁が、リビングを後にする。
「ね、樋山。緒方が気分悪そうだから上につれていくけど。夕食、朝陽と一緒に御馳走になってもいい?」
「もちろん。そのつもりで買い物してきた。――ね、朝陽ちゃん。グラタンでいいよね」
「おじさまのグラタン、好き!」
「別に朝陽のためじゃなくて、俺たちの卒業祝いだから、『俺たちの』好きなものを作ってくれるの! 朝陽のためじゃない!」
「葵くん。子どもはみんなグラタンが好きですよ」
「……ッ! 俺はグラタン、嫌いッ!」
 声だけが聞こえてくる。事あるごとに、葵は朝陽に突っかかる。
 薫も、葵ほどあからさまではないが朝陽が嫌いらしい。
 真司は原因がわかっている。
 葵や茜が生まれたときから、あいつは一線を引いていた。



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