図書室の主 | ナノ

Last concert

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 名賀が小さく笑った。
「早く戻ってきてよ」
「わかってる。じゃあ、よろしく」
 車をゆっくりと降り、扉を閉めた恭介が振り返ると、名賀がひらりと手を振った。

*****

 真司が帰宅すると、幼馴染とその娘がいた。
「あ、お邪魔してます。お忙しいときにすみません」
 葵と口論していた幼馴染の娘、朝陽が椅子から立ち上がり優雅に一礼する。その様子を満足そうに眺めている暁を見て、その穏やかな笑みにどこか安堵を憶える。
 暁。お前は、幸せそうだ。
「いや。久し振りだな、朝陽ちゃん」
「はい、おじさま」
「朝陽ちゃん!?」
 羨望を振り切るように朝陽へ返事をすると、聞きつけた茜が玄関から駆けてくる。
「朝陽ちゃん、久し振り!」
「そうだね、茜ちゃん。卒業、おめでとう」
「ありがとう! 朝陽ちゃんも! 大学合格、おめでとう!」
「ふふ。ありがとう」
「なんだ、朝陽にも行く学校があるんだ」
「葵、口を慎みなさい」
 盛り上がる朝陽と茜に葵が水を注し、茜が応戦する。
 姉に叱られた葵はふいとそっぽを向き、薫はどこにいるのかと首を巡らせるとソファで読書をしていた。
 薫の傍らに立っても真司に気づかないようで、その集中力は真司に似てしまったらしい。
「あ、お父さん。お帰りなさい」
 本を取りあげると、薫が焦点の定まらぬ瞳で真司を捉えた。
「ただいま。恭介は?」
「朝陽がゼリー、葵が杏仁豆腐を食べたいって言ったから買い物に行ってる」
「……なるほど。おい、暁、夕食も食べていかないか?」
「作るのは樋山じゃないの?」
「だから言ってるんだ」
「はいはい。じゃあ、御馳走になろうかな」



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