図書室の主 | ナノ

Last concert

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「名賀」
「スーパーだね。緒方の帰りは遅い?」
「もうすぐだと思う。そうじゃなくて、先にうちに上がって待っててよ。適当に買い物してくるから。時間ある?」
「あるけど、寄ったほうが――」
 車内の雰囲気を感じ取ったらしい名賀が口を閉ざした。
「やっぱり、先に帰ろうね。葵、お邪魔してもいいかな」
「暁おじさまはいいけど朝陽は嫌」
「葵くん、馬鹿なことを言わないでください」
 子どもじみた拒絶をする葵を朝陽は冷やかな笑みで見つめている。
「そうだよ、葵くん。おばかさん。だからおじさまに嫌われちゃうんだ」
「なんだって!?」
「ふたりともうるさい」
 薫がぴしゃりと言い、薫より年上であるはずのふたりが黙る。
 彼の幼馴染であり、元クラスメイトでもある名賀は恭介にとっても元クラスメイトで、中学のときからの付き合いだ。
 名賀が未婚の父となったときには、彼と一緒に朝陽の育児も手伝った。
 そのこともあってか、朝陽は彼や恭介のことが大好きで、葵たちは自分の知らない恭介を知っている朝陽が気に入らないのだろう。いつか名賀が面白そうに言ったことがある。
 父親同士が幼馴染で親しいのだし、朝陽と葵も幼い頃からよく一緒にいたのだから仲良くすればいいのにと思うが、そううまくはいかないらしい。
「はい、着いた」
 朝陽が降り、葵もしぶしぶと降りた。
 薫はちらりと恭介を振り向き、「どうかしましたか」と訊ねると首を横に振り、車内には名賀と恭介のふたりきりとなった。
「樋山、やっぱりスーパーまでついていこうか」
「きみはうちで待ってて。葵くん、最近おかしいから。朝陽ちゃんに何かするとは思ってないけど、不安定なんだよ。どうせ真司がもうすぐ帰ってくるから、ねえ、お願い」
 はあっと大きく名賀が息を吐く。
「俺は樋山が嫌いだよ。勝手に緒方に逆上せあがって勝手に突き放して、その結果がこれだ」
 この台詞を聞くのは初めてではない。
「知ってるよ」
 あのときよりも、心が穏やかでいられるのはいろいろなものを手放したからだと思う。



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