Lord's prayer
我が子を愛せないなんて、嘘だと思っていた。
なのに、恭介は息子を愛せずにいる。
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「ほら。きみも抱っこしてくれるでしょう?」
瑞貴は彼が気になるようで、笹原の伯父伯母にもらった積み木を口に突っ込むときも、布団に転がしたときも、じいっと彼を見つめていた。
絶えず動いているのに、視線は彼に固定している様子に恭介は苦笑し息子を抱きあげ、彼へ手渡した。
彼はちらりと瑞貴を一瞥しただけで、手慣れた仕草で瑞貴を抱えてくれた。
「……どっちかというと、薫のときみたいな重さだな」
「あ、きみもそう思う?」
梓紗はリビングで茜や葵と談笑している。
襖一枚を隔てた和室に恭介と彼、瑞貴はいた。
駆け落ち同然で籍を入れ、一年も経たないうちに瑞貴が生まれた。
恭介の両親も彼女の両親も、孫の存在は知らない。
瑞貴の生まれた翌日、彼と葵たちが来てくれた。
茜は嬉しそうに瑞貴を見つめ、薫ははとこという存在に戸惑っているようだった。
葵は笑っているが無理しているのがわかった。――葵と茜に初めて会った日の自分にそっくりだったから、わかる。
それ以来ばたばたして、お互い行き来がなかったものの、少し人間らしくなった瑞貴に彼らは会いに来てくれた。
「ところできみ、再婚する気ないの?」
首を曲げて、まっすぐに彼に魅入ることのできる息子が羨ましくて、また突拍子もないことを言ってしまうと、彼は呆れたような表情になった。
沈黙に、怒らせたかと内心焦ったが、実際はそうでないこともわかっている。
「お前が誰を愛そうと、止める気はない」
ひとりごとのようだった。
瑞貴を抱え直し、その頬を突いている。