王子は現在夢の中
*****
「俺の心、傷つけて満足?」
朝陽をあやしながら、暁は自分でもわかるほど傷ついた笑みを浮かべていた。
「お前の場合、自業自得」
運転席の緒方は暁の神経を逆撫でし、助手席の樋山は「ごめん」と呟いた。
朝陽の瞳にはときどき涙が溜まるが、甘え泣きのようなものなので暁は気にしていない。
「なあ、暁」
「なに」
「お前、草場のこと、好きだった?」
「真司」
咎めるように樋山が緒方を呼ぶ。
暁は腕の中の朝陽の頬を突く。
「わからないよ。俺に恋は向かなかったみたい。――緒方、このまま送ってってよ」
「わかってる」
幼馴染のお節介の真意も、暁はなんとなくわかっている。
朝陽を、あるべきところに返すべきこともわかっている。
だけど。
もう、選んだのだ。
この命を愛せるときが来たとき、なにかに気づくだろう。
いつか。
いつか。
朝陽と出会えてよかったと思えますように。