図書室の主 | ナノ

王子は現在夢の中

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 緒方らしいような、らしくないような答えだ。
 ふいに、朝陽がにっこりと笑った。
「緒方、俺にも抱っこさせてよ」
「駄目だ。今、この子は暁から預かっている。朝陽ちゃんになにかあったら、暁に会わせる顔がない」
「妙に律義だね」
「幼馴染だからな」
「きみだから、ってことくらいは俺にもわかるよ」
 朝陽はじっと悠太の瞳に見入っている。
 緒方も悠太を見透かすように真剣だ。
「後悔、しないか」
「したとしても、それがわかるのはずっと後だよ。そのときに俺は、いろんなものを手に入れていると思う。悔やんでも、その傷は癒える。今、結論を出すことじゃないと思うんだ。朝陽ちゃんを返してあげて。暁のところへ」
 悠太は体を起こし、扉を開けた。
 複雑そうな表情をした樋山と暁がいた。悠太は驚かなかった。なんとなく、そんな気がしていた。
 大声で話していたわけではないので、たとえ扉に耳を当てていたとしても会話は聞こえなかっただろう。
「入りなよ」
 静かに悠太が言ったが、ふたりは首を横に振る。
「そこの問題児を引き取って、帰るよ。草場、ごめん。俺の詰めが甘かった」
 頭を下げる樋山はこの数十分の間にやつれたように見える。
「俺も。幼馴染と娘が迷惑を掛けて申し訳ない」
 暁は苦々しそうで、申し訳ないと思っているのではなく、言わなきゃいけないから言っているような印象を受ける。
「別に。ほら緒方、お迎えが来たよ。帰りなさい」
 緒方はわかりやすい渋面をつくった。
「お前たち、どっちも意地っ張りだな」
「大切なものが、緒方や樋山とは違うんだよ」
 緒方から朝陽を受け取った暁が疲れを滲ませた声で言う。
「緒方、これからは俺と悠太のことで引っ掻き回さないで。本当に疲れたし、面倒。朝陽の面倒を見るのを助けてくれていることは本当にありがたいけれど、俺たちふたりは本当に終わった」



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