図書室の主 | ナノ

王子は現在夢の中

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「ん? なんだ、昼寝中だったか」
 左腕に朝陽、右腕に換えのおむつの袋を抱えた緒方が真顔でそんなことを言ったので、後先考えずに首を絞めたくなったが我慢する。
「……相変わらずとぼけたことを言うね、緒方」
「樋山と暁に会わないように、うろうろしてたんだが。ちょうどよかった。いなくなったことを確認はしたんだが、戻ってきたらアウトだからな。樋山、そろそろ手を引こうとしていただろう」
「合ってるけど、人の話聞こうね」
「あいつ、もともと乗り気じゃなかったからな。暁が来るタイミングで誤解させろって頼んでもその通りしてくれるとは思わなかった」
「きみの本来の目的が悪意によるものではないとわかっていたからだよ」
「暁は恐らく、俺を説得するようにお前に言ったんだろうな。まったく分かりやすい奴だ、っとやばいな」
 おむつの袋を蹴り上げ室内に放り込んだ緒方が空いた手で慌てて鍵を閉めた。
 途端にどんどんと叩かれる音がする。
「真司、無駄だよ、出てきて!」
「嫌だ。お前、関係ないだろう。先に帰れ」
「引っ掻き回すの、もうやめよう。ふたりの問題なんだって!」
 まったく、近所迷惑だ。
 出ていけと隣近所から言われたらどうしてくれるんだと考えると悠太は頭が痛くなってきた。
 樋山もそのことに思い当たったのだろう。音はしなくなったが、佇んでいる気配がする。
「ね、緒方」
「なんだ」
「俺と暁は本当にこれから先、くっつく予定がないんだ。だから、余計なことはしないでほしい」
「そうか」
「そう。お互いの綺麗な思い出として、もう過ぎたこととして考えたい」
 朝陽が真っ直ぐな瞳で悠太を見つめている。
 悠太も見つめ返した。緒方が朝陽を抱え直した。
「草場。お前はこれからどうするんだ」
「さあ。どうしようかな。――緒方、きみは幸せなの?」
「どういう意味だ」
「樋山とふたりでいて、楽しい? すべてを投げうっていいと思える?」
「――思えない。すべては、無理だ」



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