王子は現在夢の中
ふてくされたように暁が頷く。
「真司も大きなお世話をするねえ」
「樋山もその片棒を担いでるじゃないか」
「まあね。――草場」
樋山に呼ばれた。蔑むような視線に、吐き気がした。
「真司には朝陽ちゃんを返すように言うよ。だけど、きみからも真司に伝えてほしいな。そうしないと、似たようなことが何度でも起こるよ。身内には大概、甘いからね。あ、そうだ。草場」
愛らしい顔に騙されてはいけない。
至近距離の瞳に自分が映り、やがて耳元に樋山の唇が寄せられる。
「今日は残念だったよ」
まったく、どこまで本気なのか。
くすくすと笑いながら樋山が言い、暁が眉間に皺を寄せるのが見えた。
「じゃあね、ふたりとも。俺たちは手を引くよ。名賀、あとで真司に連絡させるから」
引っ掻き回すだけ引っ掻き回し、樋山は姿を消した。
取り残された悠太と暁はじいっと互いを見つめ、しかし口は開かない。
「で、きみはいつまでここにいるつもりなの?」
長い長い沈黙の末に冷やかに問うと暁ははっとしたように微かに目を見開いた。
「いや、すぐに出るよ……。ごめん」
少しくらい未練を感じてくれたっていいのに。そう思いたくなるほど、暁はあっさりと背を向け靴を履きなおした。
「緒方に連絡、よろしくお願いします」
「……わかってるよ」
言いたいことはたくさんある。だけど、言わない。
彼の背が消える。扉の閉まる音がする。
鍵を掛けようと手を伸ばすのも面倒臭くて、そのまま床に寝転がると携帯電話が鳴った。
誰からかも見ずに切ろうとしたら、緒方からだったので怒鳴りたいのを我慢して通話にする。
「もしもし?」
『鍵、開けとけ』
「開いてるけど」
電話越しに幼子の声がする。
なんだかとても嫌な予感がした。
がちゃりと扉が開く。脚で開け放し、上半身は何かを掴もうと傾けているようでこちらからは見えない。