図書室の主 | ナノ

王子は現在夢の中

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 暁は悠太をいたぶるように笑う。
「俺だってきみにはうんざりしてるんだから。きみもうんざりでしょう? 離れて正解」
 偽悪ぶってるのか。
 本当に最低なのか。
 もう、悠太には見分けがつかない。
「ねえ、どうでもいいでしょう。緒方に伝えて。俺ときみの縁は切れて戻らないって」
「だから、自分で言って」
「きみが言わないと、娘を返してもらえないんだ」
 困ったような顔が一瞬、愛しげに歪む。
「緒方は、俺ときみに仲直りしてほしいみたいだね。子どもみたいに信じてるんだよ、あの人。俺がきみのことを好きだって。俺はきみのことが嫌い。なのに緒方はわかってくれない。俺だってここに来るの嫌なんだよ。殺人未遂の人間の傍になんか、寄りたくもない。だけど、朝陽は緒方に連れ去られてしまった。きみのせいで。きみなんかがいるから。そもそもなんで俺がきみみたいなクズと一緒に生きていかなきゃいけないの。二度と関わりたくないのに」
 淡々と悠太の心を突き刺す言葉を遮る者はなく、息を忘れたように暁に見入っている樋山がとても綺麗だった。
「……俺には関係ない」
 ふっと自分の体が透明になったような高揚感。
「関係ないです、名賀さん。あなたがどうなろうと、あなたの娘がどうなろうと私には関係ない。お引き取り願えますか。私は今から樋山とやることがあるので。もしこれ以上居座るつもりなら警察を呼びますよ」
 暁は動じなかった。
「やれるものなら、やってみてよ」
 挑発するように暁が言うと、音が消えた。
「そこまでにしておきなよ、名賀」
 樋山だった。
 平手打ちを受けた暁は頬を押さえて俯いた。
「草場も。――まったく、みんな馬鹿だなあ。頭冷やそうよ」
「元はと言えばきみの恋人のせいなんだけど」
「そうだね。きみの幼馴染の仕業だ」
 暁の突っ込みも樋山は軽やかに笑って流す。
「真司は名賀と草場に仲直りしてほしくて、ふたりともその気がないけど、名賀は朝陽ちゃんを返してほしい」
「そうだ」



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