図書室の主 | ナノ

王子は現在夢の中

しおり一覧

 怒鳴った暁を無表情で眺めていた緒方はいきなり欠伸をした。
 完全に舐められていることに腹が立ち、手を上げようとしたとき朝陽が泣きだした。緒方を睨むと、暁は朝陽へ駆け寄る。
 大事な大事な真朝の子。違う。
 俺の娘。
「かわいいなあ」
 暁に抱きあげられた朝陽を見つめ、ぽつりと彼が言う。そんな感情と無縁だった彼を変えたのはやはり恋人である樋山なのだろう。
「恋は人を変えるねえ」
 暁が茶化すように言ったにも関わらず、緒方は真面目に頷いた。
「そうだ。だから、お前も愛する人と共にいてほしい。傲慢か」
「いや。でも俺にとって、それはもう叶わないんだ」
「簡単だ。名賀にその子を返せばいい」
「駄目。そしたら真朝は結婚もできない」
「自業自得だ」
「待って緒方。それ以上はきみであっても許さないよ」
 朝陽がぐしゅぐしゅと妙な泣き方をする。あやすと、にぱあと笑った。苛々する。
 緒方は無表情だった。
「朝陽ちゃん、俺にも抱かせてくれ」
「もちろん。――ほら、よかったね朝陽。緒方のおじさまが抱っこしてくれるってさ」
 珍しいこともあるものだと彼に渡すと、彼は微笑を湛えて朝陽を頬ずりする。
「それより、そのおじさまってのやめろ」
「名賀家の風習なんで諦めてね。俺だってきみのお母さまのことおばさまって呼んでたでしょう。同じことだよ」
「まあ、そうだが……」
「年寄りになったみたいで嫌なの?」
 彼は瞳を閉じて首を横に振った。
「人はいつか歳を取る」
 低い声で言うと、彼はそのまま靴を履いて外へ出た。扉の鍵が閉まる。――外から?
「え、ちょ、緒方」
 あまりにも自然で止められなかった。慌てて鍵を手に取り追うが既に彼の姿はない。
 携帯電話で彼を呼びだすと「もしもし緒方です」と緩んだ声で返事があった。
「どういうつもり」
『誘拐だ』



*前次#
backMainTop
しおりを挟む
[7/16]

- ナノ -