図書室の主 | ナノ

王子は現在夢の中

しおり一覧

 視界の端で暁が見ているのも、気づいていた。
 音もなく開いた扉に緒方が引き込まれ、鍵は締められた。


「で、お前はどっちに嫉妬したんだ?」
 にやにやと笑いながら問いかけてくる幼馴染に、まったくどこでこんなに性格がひんまがってしまったのかと嘆くこともなく暁は溜め息を吐いた。
「悠太に、かな」
「暁も言うなあ」
「きみに言われたくないけどね」
 しれっと答えた暁に感心したように彼が頷く。
「で、なんであの子の父親がきみなわけ。俺は嘘を教えられてたわけ」
「嘘も方便。草場は純情だからな、ああ言ったら暁のことを諦めると思ったんだが……見かけによらず骨があるみたいだ。よかったな」
「ちょっと待って緒方、自己完結しないで。どういうこと」
「草場に別れようって言ったのはお前だろうが」
 自分にとって大切な者のためには手段を選ばない男、緒方。
 忘れてた、きみそんな人だったよね……。ふと昔を思い出し、苦笑してしまう。
「経緯はわからなかったけど、想像はできたよ緒方。でもね、樋山のことを考えたらそれを言うべきではなかった」
「……草場にも似たようなことを言われたが、あいつはそんなこと、気にしない」
「緒方。朝陽の親はこの世でただひとり。俺だけだよ」
「暁はそれでいいのか」
「悠太を巻きこめと言うきみのほうが無体だ」
「名賀がいるだろう」
 暁のことは暁。暁の姉、真朝のことは名賀と呼ぶ彼。
 これほど嫌そうに発音するのを聞くのは滅多にない。
「緒方。これは俺の責任で」
「見境なく体を許したあいつにも問題がある」
「緒方ッ! 俺も真朝も納得しているんだ。大きなお世話だよ」
「暁、よく考えろ。割に合わないことぐらい、とっくに気がついているだろう」
「真朝をひとりきりにしたのは俺だ。俺があの家に留まれば、こんなことにはならなかった」
「さあな。自惚れるのもいい加減にしろ。お前の本心はどこにある」
「俺だってもう決めたんだ、掻き回さないでくれよッ!」



*前次#
backMainTop
しおりを挟む
[6/16]

- ナノ -