王子は現在夢の中
悠太は深く息を吐く。
「責任を負うべき人は、他にいるでしょう?」
沈黙。
「その子の父親は、緒方だね?」
肯定も否定もなく、暁は沈黙を貫き通した。
「暁。さよなら」
その囁きは、扉の向こうの彼にはきっと、聞こえない。
緒方が悠太を糾弾し自らの罪を告白した後、悠太は考えた。
緒方の一連の不可解な行動について、一緒に育てたいと言った自分について。
一生の内にこれほど考えることはないんじゃないかというくらい、考えた。
悠太を呼んだり遠ざけたりと忙しい緒方の真意はどこにあるのだろう。暁と悠太への復讐で、女性を犯すなんて卑劣な真似をするとも思えない。
暁と傍にいたいと思ったのは、あの子が本当は彼の子ではないから? 彼の子の方が、愛せるのではないか?
わからない。
手詰まりだ。
いや、ひとつだけわかったことがある。
「かっこつけすぎだよ、緒方」
階段を上ってきた緒方と目が合う。冷えた瞳でこちらを射抜く彼の心は相変わらず読めない。
「俺がきみの恋人に――子どもを産めない樋山に言ったらどうするつもりだったの?」
「二度と暁と近づくなと言ったはずだが」
「ねえ、俺の前で彼の唇を奪ってよ。好きなんでしょう、暁のこと」
「それとも俺の娘に危害を加えるつもりか」
お互い、話を聞く気がない。
ぱちっと小さな火花が散って、緒方は皮肉っぽく口端を上げた。
「そんなに俺にキスしてほしいのか」
「うるさいよ、勘違い男」
掘り返されたくない遠い過去の記憶に、とことんこいつは嫌な奴だと再認識する。
なんで自分が暁の娘を育てようと思ったかはわからない。
けれど、悠太は彼が好きなのだ。彼の傍にいたい。
どんな理由にせよ彼が姉の子を自分の子として育てると決め、彼の娘を愛することが必要条件ならば、悠太は心から愛する。
本気で暁に恋をした。今なら、すべてを含めて愛せる。
ふうんと洩らした緒方と悠太の距離がなくなる。悠太は、ちゃんと見ていた。