王子は現在夢の中
「今も付き合ってるんでしょう?」
悠太の問いかけは宙に留まり、ひどく不気味な沈黙が訪れた。
「暁の娘に関する草場の推測は、恐らく正解だろう」
悠太の知るこの元クラスメイトはとても面倒臭がりだった。そんな彼がこんなに世話を焼くのは、やはり幼馴染だからだろうか。
「なんで、それを俺に?」
「俺は自分の物を盗られるのが好きではない。しかしお前が暁を盗った」
緒方は再び、悠太を無視する。
「あれの姉は、あれと顔がそっくりでな。犯したら子どもができた。――お前の、せいで」
そんな、まさか。無邪気に笑う緒方が怖い。
「全部、お前のせいだ」
歌うように彼が言う。
「草場、俺は次の信号で下りる。まだ、死にたくはない」
「……ひとでなし」
「お前に言われたくない。人の物を盗った癖に。暁はお前と正反対だ。姉の不幸は自分のせいであると自覚し、子どもは自分で引き取った。元凶であるお前を遠ざけて。顔も見たくないだろうな、当然。二度と暁には近づくなよ。迷惑だろうからな。じゃあ、さよなら。くれぐれも俺を轢いて逃げようなんて思うなよ」
それから自分がどうやって家に帰ったのか、悠太は憶えていない。
*****
高校のとき、暁と緒方が付き合っていて、でも悠太は諦めきれなかった。
暁じゃないと、駄目だと思った。どうしても彼が欲しかった。
その代償、なのか。
今になって。
緒方が暁の姉を犯し、そして飄々とあの家に出入りしている。
暁は真実を知らないのか?
それとも、幼馴染だからそれとこれは別なのか?
犯人は近くに置いておくくせに、元凶の俺は遠ざけるのか。
考えても考えても答えは出ない。
気がつけば、暁の新居のインターホンを押していた。
返事はないが、扉の向こうに彼の気配がする。
「ねえ、暁」