図書室の主 | ナノ

王子は現在夢の中

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 笑うところではないのに笑おうとして、失敗した。
「そりゃあ、愛してほしいけど」
「なんで。なんでそんなことを言うの。利用したことを怒ってんなら謝る、でも今は待って」
「暁」
 ぼそりと呟くと暁が切れた。まくしたてるような暁の声が悠太に突き刺さる。緒方が暁を止めると、暁はあからさまに舌打ちをして悠太を睨んだ。
「俺、暁に利用されたなんて思ってないよ。暁を愛してるから、もういいんだ」
 言っている悠太自身も、白々しさに吐き気がした。
「――帰れ」
 嫌悪感剥き出しの暁の声、もう何もかもが嫌だ。
「帰ってよ、ふたりとも」
 どうすればいいかわからず、悠太が立ち竦んでいると緒方が悠太の腕を取った。
「大丈夫だ」
 悠太にだけ聞こえる声で、緒方はこちらに背を向ける彼の後ろ姿をちらりと一瞥し、そのまま悠太を連れ出した。
 ズボンのポケットから出した鍵で緒方が扉に鍵を掛けるのを悠太はじっと見ていた。
 当然という顔をして、彼が悠太の車の助手席に座る。
「どこに行く?」
「繁華街」
 そして、彼が悠太をじいっと見るので、悠太も思わず見つめ返してしまった。
「草場」
 澄んだ明るい茶色が悠太を見透かすように細められる。
「暁はお前と別れることを選んだ」
「……そうだよ」
「全部、お前のせいだからだとは思わないのか?」
「え……?」
 いったい、何を言いだすのだろう。「お前のために」ではなくて「お前のせい」?
「俺と暁は小学校のときから知り合いだ」
「えーっと……。幼馴染だよね」
「高校のとき、俺と暁が付き合っていたのに横恋慕したお前が暁を盗った。憶えているだろう?」
 悠太の言葉を無視して、淡々と緒方が言う。悠太は話が読めずにただ頷いた。
「俺があっさり、あいつを諦めたと思うか?」
「でも、きみには……樋山がいるじゃないか」
 暁と別れた後、高校のときからふたりが男同士で付き合っていたのは学年中、暗黙の了解だ。



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