図書室の主 | ナノ

硝子の棺は部屋の中

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 だからといって安心はできない。何しろ、刃物を向けてきた男だ。それでも彼の運転する車に乗ったのは。
 ――悠太を信じているからだ。
 朝陽がぱっちりと目を開けた。
 幸いにも朝陽は母親似で、朝陽が生まれたとき真朝とそっくりな暁はほっとした。なんとか我が子と貫き通せそうだ。
「どこか寄るところある?」
「いや、買い出しは緒方が行ってくれたから大丈夫」
「考えるまでもなかったんだ。暁がそんな不誠実なことをするはずがないって」
 だから、脈絡なく突きつけられた言葉への反応が遅れた。
「……黙れ」
「もう少し、俺を頼ってくれてもいいんじゃない?」
「黙れよ」
「暁は俺を愛してくれたもん。俺は、愛されていた自信があるよ」
 何も言えなかった。
 駐車場に車を停め、ベビーカーは後で運ぼうと先に朝陽だけを連れていくと、ベビーカーを抱えた悠太が追ってきた。ついでに、家の中まで入ってきた。
 拒否しなかったのは、家の中で待っていてくれた緒方を締め上げる計画で頭がいっぱいだったからだ。
「緒方っ!! 余計なことをするな!」
 朝陽を寝かせ、座椅子で寛いでいた緒方の襟元を締め上げるが緒方は顔色一つ変えない。
 緒方にも、友人たちにも感謝している。みんな、交代で朝陽を見てくれていた。
 でも、これはやってはいけないことだと思う。
 朝陽が誰の子であるかなんて、悠太は知らなくていい。
「緒方は何も言ってないよ。未だに口を割らない。だから、これは俺の憶測。――当たったみたいだね」
 ゆっくりと紡ぐ悠太を振り返る。
 哀しそうな目だった。しかしそれは暁を見ているのではなかった。
 緒方を見ると顔が真っ白になっていて、慌てて手を外した。その気になればいつでも外せたくせに、この男は暁のために我慢してくれていたのだと瞬時に悟る。
「俺が暁を信じていれば、もっと早くに気づけた」
 緒方の背を擦りながら、悠太は暁を見る。
「暁が嫌じゃないなら、朝陽ちゃんを育てるの、俺に手伝わせてほしい」
「嫌だ」



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