硝子の棺は部屋の中
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両親の一周忌を終え、朝陽の存在は親戚中から非難を浴びた。そのとき、暁はやはり 朝陽は自分が引き取ってよかったと思った。
あまりに広すぎる家に真朝ひとりを残しておくことが不安だったので、真朝も彼女の通う大学の近くへ引っ越してもらうことにした。暁と朝陽の住む家からは遠い。
真朝の新居に荷物を運び込み、2月いっぱいを3人で過ごした。
そして3月。一緒に家を出ることにした。
なんとなく視線を感じただけだった。
もうすぐ実家を出るから感傷的になっているだけかと思ったが違うらしい。
車輪のひとつ壊れたベビーカーを捨てようと外に出たときから、辺りにどこか不穏な空気が漂っている。
コーナーのミラーを確認すると、泣きそうな顔で包丁を構えた悠太がいた。
気づかないまま刺される。それもまた魅力的な提案だったが、気づいた以上、怖いものは怖い。
素知らぬ顔でベビーカーを押し続けると、近くに悠太の息遣いがしたので振り返る。
思わず笑みが零れた。
「きみを殺人犯にする気はないよ」
久々に味わう悠太の唇は乾いて痛かった。
「……馬鹿にしないでよ」
「悪い、つい」
きみが可愛くてとは言えずに、暁は足元に落ちた包丁を拾い悠太に手渡した。
「悠太。俺は今、死ぬわけにいかないんだ。父親としての責任がある。それ以前に、これは俺が望んだことだから。新しい命が欲しいと」
「俺と二股掛けても?」
「お前と別れた後に子どもができるとは限らないだろう。だから、子どもが確実にできてから別れようと思って」
すらすらと出る嘘に、暁は呆れた。
悠太とは別れなければならないが、ここまで自身を貶めることもないとわかっているのに。
「緒方の言った意味がわかったよ」
一瞬、冷や汗が伝った気がした。
「どういうことかな」