図書室の主 | ナノ

硝子の棺は部屋の中

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「どれ、朝陽ちゃん。俺のことは憶えてくれたかな?」
 事情をすべて知る緒方は、しかし真朝には緒方が知っていることは内緒であるため、朝陽の産まれた直後から度々実家や暁の新居に顔を出して進んで手伝いをしてくれていた。
 昔の緒方しか知らない人が見たら夢だと思うような笑顔を朝陽に向けて可愛がってくれている。
 しかし朝陽はというとタイミング良くそっぽを向いてしまった。首が座ってないのに本当に器用だ。
「真司、振られてるね」
 どこか嬉しそうに樋山が言い、そっと朝陽の頬を突くと朝陽はその指を掴んだ。
「やっぱりここは見た目天使の俺じゃなきゃね? 朝陽ちゃん」
 その様子をどこか切なそうに見ていた緒方は、しかしすぐにいつもの読めない表情を作り暁に目配せをした。
「樋山、倉木。ちょっとここにいてくれ。俺は名賀の様子見てくる。上だろう?」
「ああ」
「いってらっしゃーい」
「ごゆっくりー」
 廊下に出た緒方の背中を見送り、暁は甲斐甲斐しく娘に構ってくれる友人たちを見ると倉木が何かに気づいたように紙袋を渡してきた。
「そういえば、これ。誕生日プレゼント。渡すの忘れちゃいそうだから。朝陽ちゃんの誕生祝い込みで、暁の分。お姉さんの分は緒方が持っていった。おめでとう」
「……憶えててくれたんだ」
 そういえば昔、倉木のことが好きだった、なんてどうでもいいことをぼんやりと思い出す
「元旦なんて珍しいからな」
「開けていい?」
「どうぞ」
 中身はアルバムだった。
 まっさらなものがひとつ、これは朝陽の分だろう。
 そしてもうひとつ、ずっしりと重たいそれをテーブルに載せて扉を開く。
 中高時代の暁やクラスメイトたちがそこにいた。暁の生徒会時代のものもある。
「真司はね、ずっとそれを集めてたんだ。ふたりを知る俺にしかできないだろう、ってね」
 樋山が暁の傍に寄り、隣から覗きこんでくる。高校卒業してから、というよりこの1年が目まぐるしく過ぎていき、どこか遠くに感じられる記憶。
 でも。
「最後はこの写真だって決めてたみたいだよ」



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