図書室の主 | ナノ

硝子の棺は部屋の中

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 真朝と朝陽を見ていて思う。
 もともと家族なんだから、敢えて遠ざかる必要はないのかもしれない、と。
 子どもは大人の都合なんて考えてはくれない。それに苛々する半面、暁が笑顔でいられる時間が増えたのも朝陽のお陰だった。
 昨年の今頃は両親も生きていて、悠太とはただの親友に近い恋人で。
 それを考えると頭が痛い。
 あの日、悠太は声を殺して泣いていた。暁は黙って逃げてきた。
 しかし、そちらの傷はいつか癒える。暁にとっては現実的な問題が差し迫っていた。
 保育園に入れるのが月齢4ヶ月から。とてもではないが大学どころではない。しかし、暁は留年したくないし真朝を留年させる気もない。
 緒方を拝み倒し、親戚で誰かが引き受けてくれるまで彼とその恋人、さらにその友人たちに交代で見てもらうことになった。
 今日は、そのための顔合わせと称して実際は暁の両親の仏壇を拝みに来てくれた。
 問題はあるにはある。緒方とその恋人樋山の友人となれば当然、名賀の知り合いでもあるのだ。しかしそこは目を瞑る。
 新年早々、友人たちから白い目で見られた暁だが、朝陽は人の気配を感じてご機嫌らしい。
 ちなみにこの子の母親が真朝であることは、幼馴染である緒方以外は知らない。
「しっかしさー。悠太でもよかったんじゃないの?」
 一見白い目で見たようで、暁の孤独感も察している友人たちは暁の不実を責めることもなく、しかし自分たちの知らない間に誰と誰がくっついたかなんて知らないようで。
「随分前に大喧嘩したんだよ。音信不通だとさ」
 彼らは友人として候補をあげただけだと自身に言い聞かせることでなんとか無表情を保っていると緒方が呆れたように助け舟を出してくれた。お陰で疑われずに済んだ。
「へえ……。まあ、暁は頑固だし悠太は気が弱いし。修復は絶望的かな」
 愉しそうに言う友人、倉木の頭を樋山が代わりに叩いてくれた。
「いじめるなよ。朝陽ちゃんが可哀想だ」
「え、俺は?」
「きみは自業自得」
 つんと澄まして言う樋山も、緒方相手にはでれでれすることを知っている暁は怒る気にもなれない。
「でも、余計なお世話だけどさ。仲直りしておきなよ。シングルファザーなら、友人の手が多い方がいいって」
「……本当に大きなお世話だな」
 緒方が溜め息を吐きながら言った。



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