硝子の棺は部屋の中
そっと呼びかけると、どこか遠くから返事が来たような気がした、
「何人いようと、他所にやる子どもはいません」
真朝と暁が生まれたとき、真朝を引き取ると申し出た親戚の夫婦がいたそうだ。
そのとき母がきっぱり言ったのだと父から聞いた。
きっと女性と男性の違いなのだと父は言っていた。
自分たちのこんな姿を見たら両親は嘆くだろう。
でもさ、お父さん。お母さん。
俺は男だからひとりでも生きていける。
だけど真朝はちゃんと旦那さんに託したいんだ。
じゃないと俺も、それこそ結婚できないよ。
心残りで、真朝を残して死ぬこともできない。
ねえ、俺が悠太のところにいたからこんなふうになったってお父さんとお母さんも思う?
俺の、自業自得だって。
うん、わかってる。
俺のせいでもあり、真朝のせいでもあるんだよね。
*****
暗くなる前に実家を出た暁は新居を探し始めた。
朝陽が産まれたら慣れた実家で育てたい気持ちは山々であったが、真朝が朝陽と離れがたくなることを考えると、悠太と一緒にいると思ってくれている方が都合がよかった。
保育園が近いことが第一条件。次に、大学から近い方がいい。真朝と違う大学にしていてよかった。後ろ指を指されても自分ひとりで済む。
そんなことを考えながら新居巡りをしている最中に入ったコンビニで、どこかで見たことがあるような店員を見かけた。
誰だっけ。
でも、どこにでもいるような顔だ。
「――西原」
名札を見て思い出した暁は眉間に皺を寄せる。
この男が、朝陽の父親。
会ったら、言いたいことはたくさんあった。
殴ろう、と考えたこともあった。