図書室の主 | ナノ

硝子の棺は部屋の中

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 眼光鋭く暁を射抜く緒方だが、その中には暁と真朝への労わりも込められていて本当に頭が下がる。
「――ごめん」
「じゃあ、俺は帰る」
「うん。ありがとう」
 滞在時間、僅か20分。
 用件を済ませ、あっさりと帰った緒方。
 彼から連絡があったのは3日後の夜だった。
『週末、この前と同じ時間に俺の家に来い。いいな』
 それだけ言ってぶつりと切れた通話。
 ふと、悠太の控えめな微笑が恋しくなった。
 あれから電話もメールもしていない。

*****

 大学に入ってひとり暮らしを始めた緒方の家を訪ねるのは初めてで、しかしそこは懐かしい空気を漂わせていた。
 ぱっと見、ただのひとり暮らし。
 しかし、時折誰かが訪れているのだろうと思わせる何かがある。
 それは、ひとりでいるにも関わらず昔よりもずっと幸せそうな緒方の表情かもしれないし、彼なら絶対に着ないサイズの服が1着、丁寧にアイロンをあてられていたからかもしれない。
 周囲の視線を気にすることなく、自身を貫く恋愛ができる彼が羨ましかった。
 ――自分も悠太と暮らしていた頃はこんなに幸せそうに笑っていたはずだ。
「さて、本題に入ろうか」
 紅茶を片手に厳しい表情に転じた緒方の声が暁の気を引き締める。
「知らない方がいいこともある。名賀は、ひとりで父親が誰とも知れぬ子を育てている。その方が幸せかもしれないが。それでも暁は知りたいか?」
「知りたい。これは俺の責任でもあるから」
 即答した暁へ、緒方が差しだしたのは1枚の紙。見慣れた緒方の字に、目頭が熱くなった。
「それを読め。で、うちに置いていけ。証拠は名賀に隠しておいた方がいい」
「ありがとう」
・西原智陽
・にしはらともはる
・大学4年



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